【あした・きらりん】カイパパから航薫平さんへのメール(2)

 この記事は【あした・きらりん】カイパパから航薫平さんへ(1)からの続き
です。

 2月10日に送ったメールに対して、航薫平さんからすぐにお返事がかえって来
ました。

 その内容は、以下のとおり、とても誠実なものでした。
◆(1)既にアニメの作画は終わっていて、大幅な変更は不可能な状況。それでも、
セリフなどで、「できることをギリギリまでがんばりたい」という状況報告
◆(2)アニメに向けた声優の練習会で、自閉症の子2人と声優チームが一緒に遊
び、感じたことをメールしてくれたその内容の紹介
◆(3)以下の2点について意見を聞かせてほしい――
 (a)彩子の母のことばは、大事なその場面を1人で請け負う部分で、何度も検
  したところ。
  「うちの彩子は自閉症で……」としたときに、
  「自閉症とはこれだけではないよ」「こんなもんじゃないよ」という批判が
  あるのでは? 「あやまった理解」を広める可能性があるのではないか(短
  いことばでは説明不足になるかも?)、
  ということで、あえて「自閉症」ということばを削った。このあたりについ
  てのご意見、もう少しいただきたい。
 (b)今もまだ、シナリオの中で悩んでいる部分。
  一番ラストの部分で、完成した壁画を前に、タカオがクラスメートたちを紹
 介する場面で、タカオが彩子のことを
「この人がいたからクラスは1つになれた。最高に我慢強い人、彩子ちゃーん」
 と紹介している。この部分、どう感じるか?

 私は、航薫平さんの真摯で謙虚な姿勢に感銘を受けました。これはますます真
剣にお応えしなければ、と決意しました。

■2004年2月11日カイパパのメール

◆1 航薫平さんのメール(2)「あした・きらりん」声優チームの感想に接して
 「あした・きらりん」声優チームのメール、すばらしいですね! 元気をもら
いました。大人よりも彼らの方がずっと本質に迫っている気がしました。

 その中で、

声優を演じる中学生 wrote:
> 気分屋で、人見知りなんて小さい頃の私の方が酷かったほどだし・・・でも、それは
> 本人やその家族にしかわからない事なんだと思いました。だから、私たちは家族に
> 方々に話を聞きそれを分かろうとし、分かりたいと思うんですよね。
> 親御さん達のお話は分かりやすく、すごく心に伝わってきました。分かって欲しいの
> に誤解されてなかなか伝わらない辛さもあり、自分自身知らないことだらけなのにあ
> んなに明るいお母さんを見ていると本当に強いんだなと思いました。

「障害があるなんてわからない」→「家族の話を聞いて」→「理解されにくい障害と知った」
 というプロセスが、どの方も共通して体験されていることがわかりました。
 ここに、彩子の母親のセリフを考えるヒントがあると思います。

◆2 彩子の母親のセリフ〜(3)(a)の質問にお答えして

 「障害があるなんてわからない」→「家族の話を聞いて」→「理解されにくい
障害と知った」プロセスは、「あした・きらりん」本編でも同じことだと思いま
した。
 前回のメールの繰り返しになりますが、

カイパパ wrote:
> ★彩子の母親の台詞には不足があると思います。
>  いくつか、自閉症(発達障害)を推測させるキーワードが入っているが、【そ
> ういった彩子の特徴の結果→いじめられた。友達が出来なかった】という内容しか
> 伝わってこない。
>  この台詞で(説明するのはここしかない!)、「彩子は(見た目ではわからな
> いが)生まれつきの脳に障害があって、厳しく治そうとしても治すことができな
> い苦しみがある」といった内容を含めなければいけないと思います。

「彩子はちょっと変わった子」→「でも障害があるなんてわからない(こんな子
どこにでもおるねん)」
ところが→「家族の話を聞いて」→「理解されにくい障害と知った」

 やはり、このプロセスを、短い、母親と有里とのやりとりの中に盛り込まない
とダメだと私は思います(あえて断定的に言わせていただきます)。

航薫平さん wrote:
>  彩子の母のことばは、大事なその場面を1人で請け負う部分ですので、何度も検討
> したところです。
> 「うちの彩子は自閉症で……」としたときに、「自閉症とはこれだけでなないよ」
> 「こんなもんじゃないよ」とおっしゃる方がおられるのではないか。「あやまった理
> 解」
> を広める可能性があるのではないか(短いことばでは説明不足になるかも?)、とい
> うことで、あえて「自閉症」ということばを削りました。

 その心配は、理解しました。

【カイパパの提案】
 では、【自閉症】【発達障害】という用語をあえて使わずに「生まれつき
の脳に障害がある」
というプレーンな表現で、言ってはいかがでしょうか?

(案)
「私たちも、彩子が小さい頃はわからなかった。とにかく育てにくい子だとしか
思えなくて、厳しくしつけようとしてきたの。
 でも、彩子の変わった行動やコミュニケーションがうまくとれない理由が、彩
子の生まれつきの脳に障害があるとわかってから、私たちも接し方が変わったの。
この子たちは、周囲の理解がなければ、一人で生きていくのは難しい」

「周囲の理解がなければ、一人で生きていくのは難しい」というのは、『気がつ
いたらボランティア』
にも出てくる航薫平さん自身もこだわっている、根元的な
テーマなのですね。

◆3 最後のタカオのセリフ〜(3)(b)にお答えして

航薫平さん wrote:
> 「この人がいたからクラスは1つになれた。最高に我慢強い人、彩子ちゃーん」
>  と紹介しています。
>  この部分、どうお感じですか?

 前回のメールでは、あえて個別のセリフへの感想は書きませんでしたが、この
セリフが私にとっては激しく「違和感」を覚えました。先のメールで、

カイパパ wrote:
>  今のままだと率直に言って、「自閉症の少女」というアイテムが、便利に「狂
> 言回し」として使われている不快な感覚が残ります。(スケジュール変更の意味
> がわからず作業を続けようとする彩子は、やっぱり私から見たら痛々しい……)

「狂言回し」と辛らつに評価したのは、このセリフの無理解・無神経さが突き刺
さったからです。

航薫平さん wrote:
>  彩子は「我慢強い」のではない。「障害」の症例ですから、その意味では誤った表
> 現です。
>  しかし、タカオにとっては、彩子に教えられたこと、彩子がクラスになくてはなら
> ない存在だとの「事実」としてのタカオの思いの表明として、大きな声で紹介させて
> ます。

 このセリフが、タカオは、何も学ばなかった、という「事実」に思えてならな
いのです。
 それは、タカオの中で「いつ・どこで」「転換」が訪れたのか(あるいは訪れ
なかったのか)が不明確で、タカオ自身は何も変わっていないように見えるから
なのかもしれません。

航薫平さん wrote:
>  みんなお互いから学びあうという点は、作者としてぜひここでタカオに大声で語ら
> せたい。でも、やっぱり変えるべきかな。他にいい表現はないかな、等、模索してま
> す。

 私はこう考えてみました。

【カイパパの提案】
「この人がいたからクラスは1つになれた。おれたちみんな、苦手があって
もできることがある!って教えてくれた
、彩子ちゃーん」

○【苦手があっても】に「障害特性」の意味をこめました。
  ・「おれたちみんな」という共感
  ・「苦手がある」のは程度の差があれ、誰でも同じこと→彩子はシビアに出ている
 →だけど、できることがある! 大きなことを達成した! みんなで力をあわせて☆

「このまま使ってくれ」なんて傲慢なことは申しません。
 でも、どうか、「最高に我慢強い人」という表現は、やめてください。お願い
します。

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 カイパパ
\(^^)カイ君とお友だちが安心してしあわせに暮らせる世の中に!(^^)/
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(続きます)