【TBS報道特集】自閉症=水銀原因説を論じる
※2004年3月10日 ◆3(5)を追記しました。
◆はじめに
2004年3月7日放送のTBS報道特集(田丸美寿々キャスター)で、「自閉症の原因は水銀? 新療法も」という特集が放映されました。
放送は見ましたが、カイパパ通信blog☆自閉症スペクタクルで取り上げるつもりはありませんでした。が、メーリングリストやホームページでの反響の大きさを見るにあたり、きちんと論じておく必要があると思いました。
※2004年3月10日 ◆3(5)を追記しました。
◆はじめに
2004年3月7日放送のTBS報道特集(田丸美寿々キャスター)で、「自閉症の原因は水銀? 新療法も」という特集が放映されました。
自閉症は水銀?新療法も
100人に一人が自閉症とも言われています。そして、その数は年々増えています。
自閉症は先天的と言われてきましたが、子供の頃の予防接種によって生じる例があるという論文が発表され論議を呼んでいます。その原因は水銀が原因だというのです。
そして、新しい療法での改善例も報告されています。親子が取り組んだ療法とは
放送は見ましたが、カイパパ通信blog☆自閉症スペクタクルで取り上げるつもりはありませんでした。が、メーリングリストやホームページでの反響の大きさを見るにあたり、きちんと論じておく必要があると思いました。
できるだけ簡潔に要点をまとめて書きたいと思います(それでも長文になります)。紹介する引用、リンクには、様々なものがあります。カイパパが同意や推薦するものばかりではありません。合わせてお読みいただき、ご自身の判断の材料にしていただけたら幸いです。
◆1 番組の取り上げ方について
番組は、自閉症=水銀原因説の主張に賛同する人へのインタビューで構成されていました。
テレビ局としては、「一つの見解を紹介しただけです」というエクスキューズが透けて見える気がしました。正直な感想を言えば、腰が引けた、批判を周到に避けようとした構成だと思いました。
私が残念に思ったことは、自閉症に関する資料映像や音楽による演出は、おどろおどろしく「自閉症は怖いもの。災厄である」という強い印象を与えたことでした。テレビの影響力の大きさを思うと、水銀説ウンヌンを語る以前に「自閉症=怖い」というステレオタイプな思い込みを助長する番組の演出に反発を覚えました。
◆2 厚生労働省の対応とコメント
自閉症=水銀原因説では、予防接種の防腐剤として含まれるチメロサール(水銀)が子どもの体内に蓄積されて自閉症を引き起こすとしています。
番組内で、厚生労働省安全対策課平山課長がコメントをしています。
厚生労働省安全対策課のスタンスは、「疑わしきは罰せず」=「明確な因果関係が立証されなければ規制を強化することはない」と言っているわけで、脱力感を覚えます。子どもの安全を脅かす疑いがあるならば、小さな可能性でも排除していくべきではないのでしょうか。
製薬メーカーと子どものどちらの顔を見て仕事をしているのだろうか?
◆3 自閉症=水銀原因説
(1)水銀原因説について放送でわかったこと
アメリカにおいて
・自閉症の原因は水銀であるとする学説が存在すること
・予防接種によって自閉症になったと訴える訴訟が係属していること
・連邦議会で公聴会が開かれたこと
は事実だとわかりました。
しかし、核心となる争点=自閉症と水銀との因果関係の存否については、番組では説得的に論証されていないと思いました。
(2)水銀原因説の主張
・自閉症の原因は水銀である。
・予防接種に含まれる水銀が、子どもの体内に蓄積し脳神経の発達を妨げ、自閉症の原因となっている。
→それゆえに、体内に蓄積された水銀を排出すること(キレーション療法 chelation therapy)が、自閉症の改善に有効である。
(3)他の説
○日本自閉症協会の見解〜協会会報いとしご71号(2001/11/8発行)
「自閉症と水銀化合物」協会研究部会長 山崎晃資(東海大学教授)
この見解は、水銀説を否定しているとは読めません。「自閉症の病像はきわめて多様であり〜複合的に関係している」とあり、水銀が複合原因の一部である可能性は否定していないからです。また、最後の「そして」以下の一文は、親の切実な疑問に答えていないと思います。
○デンマークでの研究結果
世界の環境ホット!ニュース : [GEN 271] 自閉症と水銀は無関係か? から引用
(筆者:別処珠樹氏は「自閉症=水銀原因説」を雑誌『週刊金曜日』で紹介された方です)
(4)私の素朴な疑問
自閉症=水銀原因説のヒントとなったのは、水銀中毒症状と自閉症の症状が似ているからだと言われます。
そうだとすると、原因が水銀中毒だということが明確な水俣病のことが当然頭に浮かびます。
水俣地区で、自閉症の有病率が有意に高いという研究はあるのでしょうか?
自閉症がシビアに顕現したものが、水俣病なのでしょうか?
――疑問です。
参考情報ですが、水俣病の治療法として、キレーション療法は用いられています。
・国立水俣病総合研究センター水俣病情報センター:水俣病の原因究明(治療法)
・同:有機水銀中毒症におけるキレート剤の効果
(5)「自閉症とワクチンは因果関係がない」論文リンク ※3月10日追記
いつもお世話になっているA Fledgling Child Psychiatrist(「駆け出し児童精神科医」という意味ですが、謙遜しすぎ!です)で、自閉症と水銀含有ワクチンの関係を否定する調査についてまとめられています。
・TBSの報道特集
過去記事として紹介されている中でも、以下の2つは特にチェックです。
・自閉症とワクチン
・やっぱりチメロサールを含むワクチンと自閉症は関係ない
また、A Fledgling Child PsychiatristのTBS報道特集に対する評価も、ぜひお読みください。
・報道特集「自閉症」続報
◆4 わが子に試す前に…
親として、わらをもすがる気持ちになるのはわかります。しかし、その前に少し気持ちを落ち着けて、
★日本自閉症協会京都府支部サイト所収
・自閉症の新しい治療プログラムを検討する際の評価指針
・自閉症の治療法選択肢についての小児科の意見
この2つの文書をお読みください。水銀除去療法についての直接の言及はありませんが、評価するときのヒントになります。
「それでも賭けてみたい」と思われる方は、「魔法の薬」に飛びつく前に、毛髪ミネラル検査を受けてからでも遅くはありません。検査自体は身体的な負担はないので。毛髪から検出された結果が、体内に多量の水銀が蓄積されていることを示していないとすれば、リスクのあるキレーション療法を選択する必要はないのでは?
Google検索結果: 毛髪ミネラル検査
Google 検索結果: 自閉症 水銀
行動はご自身の判断と責任で行ってください。そして、わが子の利益を最優先で考えてください。
検査業者を選ぶ際には、検査の後にキレーション療法がセットになっているような業者を選ばないよう注意をした方がよいでしょう。
そして、もしもキレート剤の服用を始めさせるのであれば、番組でも指摘があったとおり、キレーションは身体に必要なミネラルも排出してしまう副作用があるということ。医師の指導なく取り組むリスクは小さくないということを思い出してください。私たち親は、子どもの生命と健康を預かっているのです。
◆5 もっと大切なこと〜一番伝えたいメッセージ
(1)カイパパは自閉症=水銀説は支持しない
――ここまで読んできて、「なんだカイパパはキレーションをすすめているのか?」と疑問に思われたかもしれません。
それは誤解です。私自身は自閉症=水銀原因説は支持しません。カイにキレーション療法を受けさせることは今後もないでしょう。
しかし、「水銀原因説には根拠がある。ぜひ試してみたい」と思われる方は必ずいるでしょう。その方たちを説得するだけの論拠は私にはありません。ただ、「できるだけ冷静になって、そもそも水銀が体内に蓄積されているか調べてからでも遅くはない」ということだけは伝えたい。子どもの安全を守るのはあなただから。
(2)一番伝えたいこと
実は、いま冷静に番組を観てこの記事を書けるのには理由があります。
私が、「自閉症=予防接種(水銀)原因説」を知ったのは、日経新聞2002年7月7日Sunday Nikkei上でした。
(記事の要約)
私は、この記事に触れて大きなショックを受けました。
2002年7月10日につぼみパパメーリングリストへ投稿した私のメールを紹介します。
今、このメールを読み返しても、胸が痛くなります。
この瞬間、TBSの報道特集を見て、同じ思いをいだいている親の人たちの表情が浮かびます。
みなさんに知ってほしい。
親は、自分を責めている。わが子の自閉症は、避けられたことだったのではないか? という思いに。
陰鬱な遺伝原因説、育て方の問題、テレビが自閉症を作る?
そして、また一つ、予防接種だって?
私を救ってくれたのは、先輩お母さんのひとことでした。
このメールは、この言葉のあとに、娘さんが自閉症の診断を受けてから10年のことが短く、そして温かくつづられていました。そして最後は、次のように結ばれます。
私は、この光景を、自分が見たかのようにありありと目に浮かべることができます。
これは、未来のカイの姿です。希望の光です。
自閉症は災厄だなんて、だれが決めたの? 本人はそう思っているの?
教えられたことを大切に守り、自分のものにし、一生懸命歩くわが子を、「怖いもの・治癒されなければならないもの」だなんて決めつけるのは、親の傲慢じゃないの?
――それだけなんです。私が本当に伝えたいことは。
【参考論文】
・ローナ・ウィング「自閉症スペクトル障害の疫学:有病率は増加しているのか?」
・ジム・シンクレア「われわれの存在を嘆くな」
【謝辞】
黄桃さん、ryusan、Tamagoさん、こうままさん(こうまま掲示板もぜひチェックを!)、つぼみパパメーリングリストのみなさん、T-AICHIメーリングリストのみなさん、ローナ・ウィング博士、門眞一郎先生、そして最後まで辛抱強く読み通してくださった読者の方々、ありがとうございます。
3(5)は2004年3月10日に追記しました。takayanさん、紹介ありがとう!
【関連記事(連載)】
・(1)【TBS報道特集】自閉症=水銀原因説を論じる ←現在ご覧の記事です
・(2)【水銀原因説?】親の気持ち
・(3)【水銀原因説?】体質の問題?
・(4)【水銀原因説?】TBS報道特集への反響リンク集
・(5)【本】自閉症研究の到達点を知るために
・(6)【水銀原因説?】自閉症協会からのコメント
・(7)【水銀原因説?】TBS報道特集で「注意の呼びかけ」2004年3月14日放映
◆1 番組の取り上げ方について
番組は、自閉症=水銀原因説の主張に賛同する人へのインタビューで構成されていました。
テレビ局としては、「一つの見解を紹介しただけです」というエクスキューズが透けて見える気がしました。正直な感想を言えば、腰が引けた、批判を周到に避けようとした構成だと思いました。
私が残念に思ったことは、自閉症に関する資料映像や音楽による演出は、おどろおどろしく「自閉症は怖いもの。災厄である」という強い印象を与えたことでした。テレビの影響力の大きさを思うと、水銀説ウンヌンを語る以前に「自閉症=怖い」というステレオタイプな思い込みを助長する番組の演出に反発を覚えました。
◆2 厚生労働省の対応とコメント
自閉症=水銀原因説では、予防接種の防腐剤として含まれるチメロサール(水銀)が子どもの体内に蓄積されて自閉症を引き起こすとしています。
番組内で、厚生労働省安全対策課平山課長がコメントをしています。
(厚生労働省は予防接種に含まれる水銀に対する規制をこれまで以上に厳しくする考えはない――ナレーション)
平山課長「得られているデータを見ても(水銀と「自閉症」の)関係を実証するには十分ではない結果に終わっています。
(質問:「関係を肯定も否定もしていないと?」)
平山課長「そうですね。どちらとも判断しがたいということだと思います」
厚生労働省安全対策課のスタンスは、「疑わしきは罰せず」=「明確な因果関係が立証されなければ規制を強化することはない」と言っているわけで、脱力感を覚えます。子どもの安全を脅かす疑いがあるならば、小さな可能性でも排除していくべきではないのでしょうか。
製薬メーカーと子どものどちらの顔を見て仕事をしているのだろうか?
◆3 自閉症=水銀原因説
(1)水銀原因説について放送でわかったこと
アメリカにおいて
・自閉症の原因は水銀であるとする学説が存在すること
・予防接種によって自閉症になったと訴える訴訟が係属していること
・連邦議会で公聴会が開かれたこと
は事実だとわかりました。
しかし、核心となる争点=自閉症と水銀との因果関係の存否については、番組では説得的に論証されていないと思いました。
(2)水銀原因説の主張
・自閉症の原因は水銀である。
・予防接種に含まれる水銀が、子どもの体内に蓄積し脳神経の発達を妨げ、自閉症の原因となっている。
→それゆえに、体内に蓄積された水銀を排出すること(キレーション療法 chelation therapy)が、自閉症の改善に有効である。
(3)他の説
○日本自閉症協会の見解〜協会会報いとしご71号(2001/11/8発行)
「自閉症と水銀化合物」協会研究部会長 山崎晃資(東海大学教授)
(略)
昨年(2000年)4月、米国の研究者サリー・バーナードらは、自閉症と水銀中毒の症状が酷似していると発表した。
(略)
子どもでは、有機水銀が脳内に入ると無機水銀に変わって血液脳関門を戻らなくなる、鉛がエチル水銀の毒性を高めるなどの報告がある。しかし、自閉症の病像はきわめて多様であり、バーナードらの病状比較のように単純化できるものではない。自閉症の発症には、複数のDNA配列異常、内分泌撹乱物質などが複合的に関係している可能性が高い。問題は、神経毒性のある水銀化合物をなぜ使い続けてきたのかということである。そして、米国では国立発達障害医学研究所が設立されつつあるが、日本ではこのような動きがまったくないことが、さらに大きな問題である。
この見解は、水銀説を否定しているとは読めません。「自閉症の病像はきわめて多様であり〜複合的に関係している」とあり、水銀が複合原因の一部である可能性は否定していないからです。また、最後の「そして」以下の一文は、親の切実な疑問に答えていないと思います。
○デンマークでの研究結果
世界の環境ホット!ニュース : [GEN 271] 自閉症と水銀は無関係か? から引用
(筆者:別処珠樹氏は「自閉症=水銀原因説」を雑誌『週刊金曜日』で紹介された方です)
ワクチンに含まれる有機水銀製剤のチメロサールが「自閉症」の原因であるとして、アメリカで「自閉症」患者の団体が製薬会社を相手取って訴訟に持ち込んでいます。また それを裏付ける研究が出ていることは [GEN] でもお知らせしていますし、雑誌にも発表してきました。ところが、関連を否定する研究がデンマークに現れました。
アメリカの専門誌『小児科学』の9月号に、デンマーク疫学センターのクレーステン・マドセン Kreesten M. Madsen 博士らが発表したものです。1971〜2000年の間に「自閉症」の診断を受けた2歳から10歳の子どものデータを、デンマーク国内の小児科学データベースから抽出して調べました。
956 人のデータのうち、男児:女児の比は 3.5:1 です。90年までデンマークでは水銀製剤のチメロサールがワクチンに使われていました。使用を中止した91年以降2000年までのデータを見ると「自閉症」の減少が見られず、かわらず発症の増加が続いていることがわかったとしています。チメロサールと「自閉症」の間には関連があるという見解を支持するデータはないというのが結論です。
(4)私の素朴な疑問
自閉症=水銀原因説のヒントとなったのは、水銀中毒症状と自閉症の症状が似ているからだと言われます。
そうだとすると、原因が水銀中毒だということが明確な水俣病のことが当然頭に浮かびます。
水俣地区で、自閉症の有病率が有意に高いという研究はあるのでしょうか?
自閉症がシビアに顕現したものが、水俣病なのでしょうか?
――疑問です。
参考情報ですが、水俣病の治療法として、キレーション療法は用いられています。
・国立水俣病総合研究センター水俣病情報センター:水俣病の原因究明(治療法)
・同:有機水銀中毒症におけるキレート剤の効果
(5)「自閉症とワクチンは因果関係がない」論文リンク ※3月10日追記
いつもお世話になっているA Fledgling Child Psychiatrist(「駆け出し児童精神科医」という意味ですが、謙遜しすぎ!です)で、自閉症と水銀含有ワクチンの関係を否定する調査についてまとめられています。
・TBSの報道特集
過去記事として紹介されている中でも、以下の2つは特にチェックです。
・自閉症とワクチン
・やっぱりチメロサールを含むワクチンと自閉症は関係ない
また、A Fledgling Child PsychiatristのTBS報道特集に対する評価も、ぜひお読みください。
・報道特集「自閉症」続報
・自閉症と水銀、チメロサールとの関連は現在ほぼ否定されています。「激しい議論」になっていると報じられていましたが、すでに論争は終わりつつあります。厚生労働省のワクチンに関する対応も常識的なものであると言えるでしょう。現時点でチメロサールを理由にワクチンの接種をひかえることは、メリットよりもデメリットがはるかに大きいと言えます。
・僕の知る限りキレート療法に関して、信頼できる比較対照試験はありません。
ここは特に重要なのですが、子供は成長します。自閉症(でなくても)の子供が、できなかったことができるようになった場合、それは成長と教育(療育)の成果であると解釈するのが最も自然です。バランス感覚が良くなるのも、おちついて知能テストが受けられるようになるのも、自然な成長の結果として何も矛盾はありません。「この1年間キレート治療以外なにも新しいことはしていない」とコメントしていた親御さんがいましたが、1年は子供の成長にとって十分すぎるほどの時間であるということが忘れられていないでしょうか。番組ではIQが取り上げられていましたが、自閉症の子供で、特に4才頃から8才頃の間に急速にIQが向上することは、臨床的にもよく経験されます。
◆4 わが子に試す前に…
親として、わらをもすがる気持ちになるのはわかります。しかし、その前に少し気持ちを落ち着けて、
★日本自閉症協会京都府支部サイト所収
・自閉症の新しい治療プログラムを検討する際の評価指針
・自閉症の治療法選択肢についての小児科の意見
この2つの文書をお読みください。水銀除去療法についての直接の言及はありませんが、評価するときのヒントになります。
「それでも賭けてみたい」と思われる方は、「魔法の薬」に飛びつく前に、毛髪ミネラル検査を受けてからでも遅くはありません。検査自体は身体的な負担はないので。毛髪から検出された結果が、体内に多量の水銀が蓄積されていることを示していないとすれば、リスクのあるキレーション療法を選択する必要はないのでは?
Google検索結果: 毛髪ミネラル検査
Google 検索結果: 自閉症 水銀
行動はご自身の判断と責任で行ってください。そして、わが子の利益を最優先で考えてください。
検査業者を選ぶ際には、検査の後にキレーション療法がセットになっているような業者を選ばないよう注意をした方がよいでしょう。
そして、もしもキレート剤の服用を始めさせるのであれば、番組でも指摘があったとおり、キレーションは身体に必要なミネラルも排出してしまう副作用があるということ。医師の指導なく取り組むリスクは小さくないということを思い出してください。私たち親は、子どもの生命と健康を預かっているのです。
◆5 もっと大切なこと〜一番伝えたいメッセージ
(1)カイパパは自閉症=水銀説は支持しない
――ここまで読んできて、「なんだカイパパはキレーションをすすめているのか?」と疑問に思われたかもしれません。
それは誤解です。私自身は自閉症=水銀原因説は支持しません。カイにキレーション療法を受けさせることは今後もないでしょう。
しかし、「水銀原因説には根拠がある。ぜひ試してみたい」と思われる方は必ずいるでしょう。その方たちを説得するだけの論拠は私にはありません。ただ、「できるだけ冷静になって、そもそも水銀が体内に蓄積されているか調べてからでも遅くはない」ということだけは伝えたい。子どもの安全を守るのはあなただから。
(2)一番伝えたいこと
実は、いま冷静に番組を観てこの記事を書けるのには理由があります。
私が、「自閉症=予防接種(水銀)原因説」を知ったのは、日経新聞2002年7月7日Sunday Nikkei上でした。
(記事の要約)
日本脳炎や三種混合などに使われるワクチンの防腐剤(チメロサール)に含まれている「水銀」が、「自閉症」の発症と関連性があると、米国では1999年から問題視され始めた。
2000年には、研究者サリー・バーナードが、水銀中毒と自閉症の類似性などを挙げ、ある種の自閉症は幼少期の水銀摂取によると指摘した。
米国では、小児用ワクチンについては2000年にチメロサールを除去した製品が登場し、ほとんど切り替わった。
日本では、厚生労働省が99年と2001年の二回にわたり、チメロサールを除去,または極力減らすよう製薬会社を指導した。しかし、「チメロサールによる明確な被害は証明されて
いないし,欧米でも予防的措置にとどまっている。製品の回収や切り替えの明確な時限は設定していない」(医薬局安全対策課の伏見環安全対策企画官)。調査委員会を発足させる動きもない。
日本のメーカーでチメロサールを使わないワクチンを作っているのは、北里研究所だけ。他は対応が遅れている。
私は、この記事に触れて大きなショックを受けました。
2002年7月10日につぼみパパメーリングリストへ投稿した私のメールを紹介します。
「自閉症・水銀原因説(環境因子の一つとして、ですが」のことは、この記事を読んで、本当に初めて知りました。検索してホームページを見てみると、数年前から話題にはなっていたようですね。
何だか分からないけど、とっても元気がなくなりました…。
その理由は、
(1)もしかしたら、後天的な「避けることの出来たかもしれない」障害だったのかもしれない、という思いが頭をもたげてきたこと(自閉症の告知を受けた直後から、色々悩んで克服してきた思いです)
(2)薬害エイズと同じく、行政が後手に回ったことの被害にあってしまったのかもしれない、という思い。
(3)水銀原因説を、全く知らなかったこと。情報が与えられなかったこと、と自分で見つけだすことができなかったことの両方が悔しい。
(4)「原因」がわかったとしても、今のこの子のためにできることが変わるわけではない、ということ。
──書き出してみたけれど、よくわかりません。
あの日経新聞の記事だけで、自閉症・水銀原因説を信じたわけではありません。
記事には、自閉症は「精神障害に含まれる発達障害」などという明白な誤りもありました。記者は、取材したことをそのまま聞き書きをしているような印象をうけました。
私は、研究論文をきちんと検証したわけではないので、判断できないというのが正直なところです。(もしかしたら、何年か後にトンデモ説と結論づけられる可能性も絶対にないとはいえませんよね)
けれども、国と薬品メーカーは「疑わしきは罰する」の精神で、子どもの体に悪影響があるかもしれない物質は、迅速に排除するべきです。
私は元気をださなくちゃ。
今、このメールを読み返しても、胸が痛くなります。
この瞬間、TBSの報道特集を見て、同じ思いをいだいている親の人たちの表情が浮かびます。
みなさんに知ってほしい。
親は、自分を責めている。わが子の自閉症は、避けられたことだったのではないか? という思いに。
陰鬱な遺伝原因説、育て方の問題、テレビが自閉症を作る?
そして、また一つ、予防接種だって?
私を救ってくれたのは、先輩お母さんのひとことでした。
親として避けられるはずのことを避けてやれなかった、とご自分を責めていませんか?
避けられるはずのことが100%避けられるわけではないと思います。
このメールは、この言葉のあとに、娘さんが自閉症の診断を受けてから10年のことが短く、そして温かくつづられていました。そして最後は、次のように結ばれます。
学区外の学校からひとりで帰ってくるようになった娘を、先月こっそり尾行しました。
教えたとおりに信号を見、左右を確認し…汗かきなので、持たせたタオルで汗を拭き拭き、一生懸命歩いて帰る姿を見て心から愛しいと思いました。(親ばか)
私は、この光景を、自分が見たかのようにありありと目に浮かべることができます。
これは、未来のカイの姿です。希望の光です。
自閉症は災厄だなんて、だれが決めたの? 本人はそう思っているの?
教えられたことを大切に守り、自分のものにし、一生懸命歩くわが子を、「怖いもの・治癒されなければならないもの」だなんて決めつけるのは、親の傲慢じゃないの?
――それだけなんです。私が本当に伝えたいことは。
【参考論文】
・ローナ・ウィング「自閉症スペクトル障害の疫学:有病率は増加しているのか?」
・ジム・シンクレア「われわれの存在を嘆くな」
【謝辞】
黄桃さん、ryusan、Tamagoさん、こうままさん(こうまま掲示板もぜひチェックを!)、つぼみパパメーリングリストのみなさん、T-AICHIメーリングリストのみなさん、ローナ・ウィング博士、門眞一郎先生、そして最後まで辛抱強く読み通してくださった読者の方々、ありがとうございます。
3(5)は2004年3月10日に追記しました。takayanさん、紹介ありがとう!
【関連記事(連載)】
・(1)【TBS報道特集】自閉症=水銀原因説を論じる ←現在ご覧の記事です
・(2)【水銀原因説?】親の気持ち
・(3)【水銀原因説?】体質の問題?
・(4)【水銀原因説?】TBS報道特集への反響リンク集
・(5)【本】自閉症研究の到達点を知るために
・(6)【水銀原因説?】自閉症協会からのコメント
・(7)【水銀原因説?】TBS報道特集で「注意の呼びかけ」2004年3月14日放映
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一つ疑問に思ったのは、
ここでも書かれているように水銀の蓄積について調べることができるということです。
自閉症:水銀蓄積説を唱えるのであれば当然、
その蓄積量との相関が問題になっているはずなのに、問題になっていないように感じました。そういうことなしに水銀中毒と症状が似ているからとかっていうのはナンセンスだと思うのですが。