自閉症の理解―原因・診断・治療に関する最新情報

■【本】自閉症研究の到達点を知るために

 メディアで自閉症についてとりあげられることが増えています。もともと自閉症は誤解を受けがちな障害なので、認知度が高まることは基本的に歓迎です。しかし、なかにはセンセーショナルな取り上げ方もあります。
 親として、専門家として、「自閉症研究はどこまで行っているのか?」を知っておくことの重要性を痛感しています。
 そのために、私にとって、非常に役立った2冊を紹介します。
★ 『自閉症の理解』メジボブ他 学苑社 1998 邦訳1999

 著者メジボブ教授は、ノースカロライナ大学TEACCH部の責任者です。しかし、この本では、TEACCHプログラムについては3ページしか取り上げられていません。
 内容は、歴史的背景から始まって、自閉症の定義、原因に関する医学的研究、言語と認知、治療・教育、治療法をめぐる論争まで、簡潔で客観的なレビューをしています。
 特に、「第3章 原因に関する最新の医学的研究」では、
・遺伝的知見
・胎児期・出産時の障害
・神経学的知見
・脳波所見
・神経科学的知見 がわかりやすく紹介されています。
 巻末には詳細な文献リストがあり、さらに詳細な研究を深めることができます(文献の多くは英文ですが、翻訳書があるものは併記されています)。
 本文が約150ページとコンパクトなのも素晴らしい。

★『自閉症』中根晃 他 日本評論社 1999

自閉症

「臨床の最前線にいるエキスパートに依頼して自閉症についてわかってきていることをわかりやすく解説する」ための本です(前書きより)。
 執筆者は、日本の第一人者ぞろい。2002年に設立された日本自閉症スペクトラム学会のメンバーとしても名を連ねる方たちです。

「2 神経生理学でわかってきたこと」
「3 生化学でわかってきたこと」
「12 薬物療法はどこまで進んだか」
 これらの章は、現在話題となっている、TBS報道特集「自閉症=水銀原因説?」を考える際の材料を提供してくれるでしょう。
 日々の療育を考えるためのインデックスとしての価値もあります。本書で知って、さらに詳しい情報にたどりつくことができます。
 また、執筆者によって考え方が異なり、色々なアプローチを知ることができます。その意味でも本書のメリットは大きいです。

 以上の2冊は、『自閉症スペクトル』とあわせて(なんといっても、この本が基本書です)、お読みになっていただくとよいかと思います。


自閉症スペクトル―親と専門家のためのガイドブック

【関連過去記事】
【本】自閉症スペクトル〜最初の一冊

「自閉症=水銀原因説?」についてこれから考察される方
「【TBS報道特集】自閉症=水銀原因説を論じる」
 から、お読みください。
 水銀原因説についての記事はこれで一区切りとしたいと思います。