■文部科学省 乳幼児1万人の脳機能調査

 以前から注目している、文部科学省の「脳科学と教育」研究に新しい動きがありました。
「発達障害」にフォーカスした研究とは位置づけられていませんが、LDやADHDなどを研究する過程で、自閉症スペクトラムについての知見が深まることが期待されます。
 ただ、今回の乳幼児の脳の調査で私が危惧していることがあります。
(1)「脳機能障害の原因解明!」などとスキャンダラスな報道がなされること
 結果が、短絡的に「遺伝決定説」あるいは逆に「後天的なゲームやメディアにより引き起こされる発達障害」がスキャンダラスに報じられることを心配しています。
 この調査は長期にわたる追跡調査が必要です。発達の一時期だけをとらえて、「この子は将来切れやすい人間になる」なんていう「判じ物」に使われないようにしてほしい。

(2)フォローアップのない超早期スクリーニング
 将来、研究結果が成果をあげた場合に、全ての乳幼児の6か月検診などの検査で脳の検査が用いられるようになるかもしれない。
 その場合に、フォローアップの用意されていない超早期スクリーニング(障害のふるいわけ)=「ああ、あなたのお子さんは自閉症です。この時期から対応できることは何もありませんけど」が安易になされることがないようにしなければならない。
 もっとも恐ろしい想像は、絶望した若い親が「もう自分はこの赤ちゃんを育てたくない」と育児放棄してしまうことです。

 注目していきたいと思います。

【報道記事】
・NIKKEI NET:文科省、ゲームが乳幼児の脳に及ぼす影響を追跡調査 2004年4月2日
http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20040402AT1G0201X02042004.html
文科省、ゲームが乳幼児の脳に及ぼす影響を追跡調査
 文部科学省は2日、テレビゲームのしすぎや人との触れ合い不足が脳の発達に与える影響を探るため、乳幼児1万人を対象に脳の成長を追跡調査する研究を始めると発表した。少子化や情報化社会の進展による環境変化が子どもの脳に及ぼす影響などを科学的に突き止める。

 調査は首都圏と関西の都市部で3、4カ所を選び、保健所などで定期健診を受ける零歳児と5歳児を対象に無作為に実施。保護者の了解を得たうえで画像診断装置や心理テストなどで子供の脳の働きを調べ、ゲームを1日何時間しているかなど生活環境との関連性を調べる。今年度は予備調査、来年度から乳幼児の調査を始める。

 子どもの引きこもりや不登校、キレるといった行動の原因が環境だけなのか、脳の機能に変化が起きているのか、科学的にはっきりわかっていない。研究を統括する日立製作所基礎研究所の小泉英明フェローは「調査を通じて脳の成長に悪影響を及ぼす環境要因をきちんと調べたい」と話している。

・BIGLOBEニュース:乳幼児1万人の脳機能調査=06年度から全国10カ所で−引きこもり対策で文科省 2004年4月2日
http://news.fs.biglobe.ne.jp/social/jj040402-X288.html ←リンク先消失(4月10日確認)

 こちらのサイトの表現は、上とはニュアンスが違います。近々、文部科学省のサイトに公式発表が掲載されるでしょう。

【文部科学省:「脳科学と教育」研究】

・文部科学省:「脳科学と教育」研究の推進方策について(平成15年7月 報告書)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/gijyutu/003/toushin/03071003.htm#mokuji

 この報告書が、今回報道された調査の前提となります。

・文部科学省:「脳科学と教育」研究の推進方策について
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/gijyutu/003/toushin/03071003/006.htm

 文部科学省が考える「脳科学と教育」研究の意義、推進方策の説明です。この方針に基づき、2002年3月から「脳科学と教育」研究に関する検討会が立ち上げられ検討を続けています。

【参考記事】

・科学技術政策研究所(文部科学省):科学技術動向2003年 2月号:「脳科学と教育」研究の動向
http://www.nistep.go.jp/achiev/ftx/jpn/stfc/stt023j/0302_03_feature_articles/200302_fa01/200302_fa01.html

 「脳科学と教育」の研究が、どのような仮説に基づき取り組まれているかがわかる小論。日立製作所基礎研究所・中央研究所主管研究長小泉英明氏が、この実験のリーダー的存在のようです。

・A Fledgling Child Psychiatrist:子供の脳の発達調査
http://homepage3.nifty.com/afcp/B408387254/C819714657/E1158003571/index.html
計画では0歳児と5歳児それぞれ5000人を、5年間に渡って追跡調査するようです。乳幼児健診を利用しての研究計画は、健診制度の充実している日本ならではのものと言えるでしょう。
残念なのは、おそらく予算や研究費の制約のためかと思いますが、調査期間がわずか5年間でしかないことです。こうした研究計画には特例的な長期間の予算措置を行って、十分な調査期間がとれるように出来ないものかと思ってしまいます。少なくとも思春期を越えるくらいの時期まで調査が続くとよいように思います。

【関連過去記事】
・【記事】乱れた睡眠、幼児の脳発達に悪影響?…5歳児調査
https://image.blog.livedoor.jp/kaipapa2shin/archives/46391.html