■厚生労働省の「次の一手」〜標準支援策

 国(厚生労働省)では、発達障害対策戦略推進本部(本部長・戸苅利和事務次官。同省各局や国立精神・神経センター総長らが参加した部局横断型組織)を6月につくり、乳幼児期から養護学校、就労まで一貫した支援体制を整備できるよう検討を進めていますが、具体的な「次の一手」がひとつ出てきました。

・読売新聞2006年8月25日:発達障害に標準支援策…厚労省が拠点整備、指針発信へ
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/kyousei_news/20060825ik0d.htm
■発達障害に標準支援策…厚労省が拠点整備、指針発信へ
 厚生労働省は来年度から、自閉症や学習障害などを持つ発達障害者の標準的な支援策作りに乗り出すことを決めた。この支援策を、全国の医療機関などに発信する「発達障害対策情報センター(仮称)」も創設する。

 発達障害については、医療機関や施設、学校によって治療も対応もばらばらなのが現状。科学的な分析に基づいた支援策を普及させ、全国どこでも適切な支援を受けられる体制づくりを目指す。

 発達障害の子供は、その接し方や幼児期の治療などによって、その後の生活状態や社会への適応状況も変わるとされるが、標準的な対応方法が定まっておらず、施設や医師などによって、支援レベルも異なるという。

 標準的な支援策は、都道府県から、有効とみられる手法を吸い上げ、学識経験者や専門医らで構成する国の「発達障害者施策検討委員会」で、客観的な評価を加えて作成。最終的には支援マニュアルとしてまとめる。療育方法や、学習、就労など、様々な段階で役立つと思われる支援策が盛り込まれる。

 一方、国立成育医療センター(東京都世田谷区)に置かれる予定の「発達障害対策情報センター」では、こうして作られた支援策を医療機関や養護学校などに情報提供。一般に対しても、パンフレットやホームページなどで、発達障害への理解を深めるための情報を発信する。

「標準支援策」を国が示すことは一歩前進です。なぜなら、「標準」があれば、「現状」とのギャップ、すなわち「標準」よりもできていないか/できているかが明確になるからです。

 今は、教育や福祉の現場では、自閉症・発達障害者への支援に成果を挙げている人たちが既にいて、「こんなこと誰でも真似して取り組めるのに!」と本心からの発言も出てきています。しかし、その支援策が「標準」とされていないため、成果があがっていても「、あれはあの人だからできること」「あの人が正しいとは限らない」といった消極的なとらえ方を許し、広がっていかない難しさがあります。

 何事も、広く、多くの人に浸透させていくためには、「教科書的なもの」が必要ですよね。同じ教科書で勉強することのメリットは、共通の言語で議論ができることにあります。バラバラな自己流、勝手流から、基本(=発達障害の障害特性に合った支援)を押さえた支援に変わっていくといいですよね。そうすれば、みんながハッピーになれます。

「都道府県から、有効とみられる手法を吸い上げる」とありますが、これは発達障害者支援センターを想定していると思います。支援センターに地域のノウハウが蓄積され、それが国にも共有されていき、「ベスト・プラクティス(最も良い支援方法)」を「標準支援策」としてマニュアル化していく――流れですね。

 私たちとしては、支援センターに対して、「こういう支援がうまくいっている」といった成功事例と「これは失敗で、本人を苦しめてしまった」という失敗事例をどんどん伝えていきたいですね。

 それから、国には、「標準支援策」のできたところから、「バージョン0.1ベータ版」とかでもいいから、どんどん公開してほしいです。それに対して、私たちも実際に試して見て意見をフィードバックしたい。自閉症支援は、エライ人たちにしかわからないものではなくて、知恵は現場と家庭にあるのですから(^^)

「完全なもの」が5年後にやっと発表されたなんて、遅すぎて困ります。今、ここで、困っている人たちが、少しでもラクになれるように、現在進行形で一緒につくりこんでいきたいです。

 この記事を読んで、「国は、また啓蒙啓発めいたことしかやらないのか…」と思った方もいらっしゃると思いますが、「発達障害支援のための標準マニュアル」を一緒につくりこんでいくことができたら、期待できると思いませんか? 私は、この施策は、ユーザー(当事者とサポーター)を巻き込みながら進めていけば、可能性があるとにらんでいます。

【参考】
発達障害対策戦略推進本部の設置について(PDFファイル)