アンドレ・アガシの自伝『OPEN』の中で、トレーナーのギルが食べ物についても厳しく管理して肉体を作り変えていくエピソードが描かれている。しかし、時々、アガシがストレスがたまって仕方が無いとき、ハンバーガーなど彼の好きな「ソフトフード」を食べるのを黙認してくれたという。

「ソフトフード」という表現が印象的だった。ジャンクフードとか呼ばれるもの。多くのファストフードに共通しているのは、ソフト。即ち、あまり噛まなくても食べられる。極端に言えば、「飲めてしまう」くらいソフトなものだ。

噛まずに飲めてしまえるとどうなるかというと(ハンバーガーを食べているとイメージしてほしい)もぐもぐと二三回噛むだけで、飲み込んでしまう。それを一口ごとに三回くらい繰り返して、合計10回くらいの咀嚼で完食。5分とかからない。ソフトならでは。ラクだ。

ハンバーガーに限らない。和食で、ごはんは非常に食べやすい。噛まなくても飲めてしまえる。意識せず、早食いになってしまって、よく噛みもせず、飲み込んでしまっている。坊さんの本で、和食はひとつひとつのおかずは未完成の状態であり、口の中で混ぜ合わせることで完成すると書いていた。

坊さんが言うには、だから、何か他ごとを考えたり、やりながら食べるのではなく、食事に「集中」してみなさい、ごはんとおかずが口の中で噛みつぶされ、舌でかき回され、様々な味覚を刺激し、のどに送られ、食道を通って胃袋まで落ちていく。五感を研ぎ澄ませて感じてみようと。

これを実際に食事で実践してみた。感動する。たしかに、味がわかるし、口の中で変化していくことも感じ取れる。胃にたまっていく感じ。食事の満足感や充実感がものすごい。けれども、習慣は強固で、普段私はやっぱり食事に集中できず、ながらで解離した状態で、「飲みこんでしまう」

ソフトフードはラクだ。一瞬で通り過ぎていくから、単純でわかりやすい味付けだから、美味しいは美味しい。でも、本当は、もっと食事は豊かで創造的なものになるんだ。集中して、噛みしめることで。ここから、話は飛躍していく。

最近必要があって、専門書を読んでいる。原註や訳注や引用やらが盛り盛りなタイプの。難しい。時間かけて、やっと数ページしか進まない。こういう時、「なんでもっと易しく書けないんだよー」と文句言いたくなる。いや、だけど、省みて思う。自分のアゴがやわになってる証拠だぞと。

摂取している情報、活字の量は、結構膨大。毎日毎日。ネットを読んでいる。ネットからの情報は、なんだろう、既に「飲み込みやすく」調理された「要約情報」が多い気がする。短時間に、読んでもらえるように、一口サイズで、単純な味付けで。ソフトフード。

それなりに、情報に接して、勉強しているつもりになっていたが、実際のところ、自分のアゴは弱くなっていた。複雑な仕組みを、錯綜した事実関係を、単純化してしまわずに。複雑は複雑なまま。錯綜は解きほぐしながら。自分のアゴで噛み切らなきゃ自分の中に入れることができない。

難しいことは難しいまま、時間をかけて取り組む粘り強さが要る。頭もアゴも使わないとすぐにヤワになる。以上、自分のソフトフード慣れについて、個人的に警鐘?を鳴らしてみた連続ツイートでした。おしまい。

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アガシの半生は、ソフトなんてもんじゃない。感動傑作。

沈黙入門 (幻冬舎文庫)
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坊さんの本はこちら。