高校野球部員のみなさんへ

バスでのできごと
(*バス内で高校の野球部員が知的障害者に嫌がらせをした動画を撮影しLINEにアップしていた2012年12月に起きた事件)

報道を読んで、みなさんにお手紙を書こうと思いました。

私は、中学校に通う知的障害と自閉症のある男の子の父親です。息子の名前は、カイと言います。カイのパパということで、「カイパパ」という名前で10年くらいの間活動をしてきました。

カイは生まれた時から変わっていて、こちらの伝えたいことが全く伝わらず、夜は眠らず、とても育てづらい子でした。それでも、私たちは、「いつかよくなる」と信じて育ててきました。
カイに障害があるとわかったのは、2歳の時でした。重い知的障害と自閉症。最初は何が起きたのかわからず、ショックを受け、かなしみに暮れていました。しかし、気づいたのです。診断があったからカイが障害になったのではありません。診断の前も後も、カイはカイだ。そう思ったら、この子の成長につきあっていこうと心が決まりました。

(みなさんにはたぶん想像もできないくらい)不器用で、できないことだらけの息子ですが、13歳になり、少しずつ成長してきました。成長のひとつひとつが、奇跡のようです。ひとりでトイレに行けたとか、着替えができたとか、そんな「当たり前」にみえることが「すごい!」と感動をしてきました。

それでも、カイを1人で外で行動させることはできません。車や自転車を避けることができないことも心配ですが、「目的地へ行って、家に帰ってくる」という概念が理解できていないことが、理由です。

中学校には、私かヘルパーさんが付き添って通学しています。中学校の通学路は下見をして慎重に決めました。自閉症の人は、一度決めたら、その決めごとを守ろうとする傾向がとても強いからです。同じパターンをくりかえすことで、わからないことから来る不安をおさえようとしているのだと思います。

カイには、3歳年上のお友達がいます。彼は今は、1人で地下鉄に乗って、特別支援学校の高等部に通っています。カイよりも、できることが多いお友達なのですが、1人で通学できるようになったのは本当にすごいことです。何回も何回も練習をしたそうです。

初めて1人で通学した朝。お父さんが隠れて見守りながらついていったそうです。
お父さんが緊張しながら観察していると、驚いたことがありました。電車を待つ間の立つ位置は、お父さんが立っていた位置とまったく同じ。乗り込んで椅子に座ってから目をつぶって「寝たふり」をするのも、お父さんがいつもするのと同じでした。

真似をしていたんですね。

私は、その話を聴いて、すごい!と思うと同時に、いじらしさに泣きそうになりました。自閉症の人は感情があまり表情に出ないので、クールに見えます。でも彼の内心は、とても不安だったんじゃないかな? お父さんと同じことをすることで落ち着く、それ以外のやり方は選べない。

カイがお友達のように1人で通学できるようになることは、憧れです。見込みは薄いけれど、あきらめたわけじゃありません。
とっても難しいことだから……。
もし、1人で通学できるようになっても、予定外のことが起きたときに、自分で対処はできません。不安で怯えてパニックになるかもしれません。

突然のできごとに対して、みなさんのように柔軟に対応することはできないので、誰かに助けてもらうことを期待するしかありません。親に電話してもらって、迎えにくるまで、安全な場所で待たせてもらうとか。

身体が大きいくせに、しゃべれなかったり、奇妙な癖があったりして、「おかしい」と思われるでしょう。でも、このことをわかってください。

身体が大きくても、
心は「3歳」くらいなんです。

もし、バスの中で、3歳の子が一人でおびえて泣いていたら、みんなで助けようとするでしょう。
もしも、障害のある人が困っていても、同じように助けてもらえませんか?

周りの方々に、助けてもらえると信じて初めて、1人で外出をできるようになれます。
私は、カイが1人で出かけられる将来をあきらめたくありません。

住む地域はちがっても、みなさんが、カイのような人たちを手助けしてくれたらどんなにいいかと心から願っています。

バスで、ひとりで通勤することが、毎日どれだけの不安に満ちた「冒険」か──
ここまで来るためにどれだけ多くのひとたちの、愛情や想いがそそぎこまれて、できるようになった「今」があるか──

わかってもらえますように

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13歳の息子の父親より

【4年後のメッセージ】
・RE: バスでのできごと(野球部のみなさんへ)
http://kaipapa.livedoor.biz/archives/52647993.html
 4年が経って、もう一度野球部(だった)みなさんへメッセージを書きました。


(*)兵庫県西部の県立高校の野球部員ら1年生10人が今月11日、路線バスの車内で知的障害者とみられる男性に嫌がらせをし、その様子をスマートフォンで撮影していたことがわかった。高校は10人を5日間の自宅謹慎にした。

 高校によると、生徒らは11日午後6時ごろ、下校中のバスに乗車してきた男性の前にかばんを置いて通行を妨げたり、男性がいつも座る席に生徒が座ったりする嫌がらせをした。男性が怒る様子を撮影してスマートフォンのアプリ「LINE」に投稿し、仲間内で閲覧していたという。

 校長は「相手の立場に立つ優しさがなく、明らかな人権侵害。今後も徹底的に指導する」と話した。教頭が男性の家族に面会を求めたが断られたため、校長が電話で謝罪したという。(朝日新聞、2012.12.28)