ゲド戦記を読み終わりました。
しみじみと長い旅を終えた余韻を味わっています。
親友が「心のベストテン第1位だ」といった気持ちがよくわかります。

ゲド戦記は、6冊のシリーズです。シリーズ3作目までの前半は大魔法使いゲドが活躍する冒険譚です。
後半はガラリと趣向が変わります。物語の世界は、秩序が揺らぎ、確信を失いかけています。女たちが、世界の成り立ちに対して違和感を感じ、行動する姿が目立ってきます。ひどい子どもの虐待も描かれます。

解説を読むと、第3作である『さいはての島へ』から第4作が1990年に発表されるまでに、18年の間があったそうです。そして、さらにそこから11年が経って、『ドラゴンフライ』と『アースシーの風』が発表されました。

調べてみると、初めの三部作は、それぞれ1968年、1971年、1972年に出版されています。このときは、児童文学として書かれ、世界の光と闇、行動と結果、意志と責任についてを物語っていますが、1990年、2011年に出版された後半の三部作は、もちろん児童文学ではありますが、かつての読者の成長に合わせるかのように、キャラクターの成長、世代交代とアースシーの世界の変化を通して、深化、変化した「世界(※物語の外の読者がいる世界)の在り方の見直し」を問いかけているようです。

時代の変遷による現実世界の変化が、ファンタジーの世界へ投影されていて、アースシーの物語の中で悩み苦しみ、解決の旅に出る主人公たちは、読者である私たちの分身でもある。このような感覚は、ゲド戦記が長い時間をかけて書き継がれたが故の同時代性のなせるわざだと思います。

これは、子どもだけが読むのはもったいない。大人が、物語の寓意を読み解きながら、世界を見る眼の曇りを拭い取るためにいい本ですね。

出版時にリアルタイムで読めていたら、もっと良かったのに!と思わないでもありませんが、今だからうけとめられる器ができたのかもしれません。出会えてよかった。折をみて、このブログでも感想を書いていきたいなと思っています。

出会わせてくれた鶴見俊輔さん、岸政彦さんに感謝します。
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