重要な判決が出ました。

・認知症男性JR事故死 家族側が逆転勝訴 最高裁 / 毎日新聞 2016年3月1日
http://mainichi.jp/articles/20160301/k00/00e/040/236000c

この判決によって、これからは親族の監督義務のみで損害をカバーしていくのではない「別の方法」が講じられるようになるといいと思います。
保険、フェンスなどの物理的安全策などの企業努力、声かけ、見守り、、、いろいろあるでしょう。

「家族だけ」では負いきれない。だから、「広く薄く」社会での負担を考えていく。(例「企業努力」は運賃に反映されていく)


──と言っても、家族が「監督義務者」として認められる場合は多くあります。この事件でも、仮に同居していたのが高齢の妻ではなくて息子たちだった場合は民法714条第1項を類推適用して「監督義務者」として賠償責任を負ったかもしれません。
(特に、同居の障害のある子を監護している親たちは、高い確率で「監督義務者」として認定されるのではないかと予想します。)

判決文の全文が読めます。

・裁判所:裁判例情報:最高裁判所第三小法廷 2016年3月1日判決
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=85714

最高裁判所はあくまでも今回の個別具体的な事件の判断を下しました。
裁判所が立法をできるわけではありません。

上に書いたような「努力」を企業や社会が講じるためには、法的な整備が必要だと思いました。

(参考)上記判決文から引用
したがって,精神障害者と同居する配偶者であるからといって,その者が民法714条1項にいう「責任無能力者を監督する法定の義務を負う者」に当たるとすることはできないというべきである。

ウ 第1審被告Y1はAの妻であるが(本件事故当時Aの保護者でもあった(平成25年法律第47号による改正前の精神保健及び精神障害者福祉に関する法律20条参照)。),以上説示したところによれば,第1審被告Y1がAを「監督する法定の義務を負う者」に当たるとすることはできないというべきである。
また,第1審被告Y2はAの長男であるが,Aを「監督する法定の義務を負う者」に当たるとする法令上の根拠はないというべきである。

(2)ア もっとも,法定の監督義務者に該当しない者であっても,責任無能力者との身分関係や日常生活における接触状況に照らし,第三者に対する加害行為の防止に向けてその者が当該責任無能力者の監督を現に行いその態様が単なる事実上の監督を超えているなどその監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情が認められる場合には,衡平の見地から法定の監督義務を負う者と同視してその者に対し民法714条に基づく損害賠償責任を問うことができるとするのが相当であり,このような者については,法定の監督義務者に準ずべき者として,同条1項が類推適用されると解すべきである(最高裁昭和56年(オ)第1154号同58年2月24日第一小法廷判決・裁判集民事138号217頁参照)。

その上で,ある者が,精神障害者に関し,このような法定の監督義務者に準ずべき者に当たるか否かは,その者自身の生活状況や心身の状況などとともに,精神障害者との親族関係の有無・濃淡,同居の有無その他の日常的な接触の程度,精神障害者の財産管理への関与の状況などその者と精神障害者との関わりの実情,精神障害者の心身の状況や日常生活における問題行動の有無・内容,これらに対応して行われている監護や介護の実態など諸般の事情を総合考慮して,その者が精神障害者を現に監督しているかあるいは監督することが可能かつ容易であるなど衡平の見地からその者に対し精神障害者の行為に係る責任を問うのが相当といえる客観的状況が認められるか否かという観点から判断すべきである。